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江戸時代の茶事を疑似体験 小説「山月庵茶会記」葉室麟

小説「山月庵茶会記」 葉室麟

江戸時代の茶事や茶会を疑似体験してみませんか?

あらすじ:小説「山月庵茶会記」葉室麟

時代は、宝暦2年(1757年)。

4代将軍家綱以来、小堀遠州の後継者と目された石見守貞昌(いわみのかみさだまさ)を祖とする石州流(せきしゅう)が武家茶道として栄えていた。

 

主人公は、柏木靭負(ゆきえ)

16年前にかつて九州豊後の黒島藩の勘定奉行を務めていたが、失脚。

その後は京都へ上り、表千家七代如心斎(じょしんさい)に師事し茶人としての号「孤雲(こうん)」として名をあげていたのだが・・・・・・。

 

柏木は16年前に亡くなった(自害)した妻、藤尾の謎を知るために、黒島藩へ戻って来るところから物語は始まります。

 

藤尾の自害に関わったとする人物を、自分の茶室に呼び(または相手の茶室に呼ばれたり)、茶事を通して藤尾の謎を問いただし、真実に近づいていこうとするストーリーです。

作品に出てくる茶事(茶会)「茶会記」

「茶会記」のように、作品に出てくる一部の茶事(茶会)の内容を抜き出してみました。

ひとつひとつの茶事の内容が細かに書かれているので、茶事の様子が目の前に浮かぶようで楽しいです。

朝から小雪が降る茶事(茶会)

亭主(茶を点てる人) 柏木

客 又兵衛

茶室 柏木の山月庵

懐石 吸い物 鯛 向付 鯛の昆布じめ 八寸 百合根、胡麻豆腐 そして白飯など

 本席

掛物 千利休の遺偈(ゆいげ)の写し

   天正19年(1591年)に自刀する際の辞世の偈

  「提(ひつさぐ)ル我得具足(えぐそく)の一太刀 今此時そ天に抛(なげうつ)」

花入 竹筒

 花 紅い椿

菓子 白砂糖で兎をかたどったもの

昼に行う正午の茶事(茶会) 

亭主(茶を点てる人) 柏木

客 又兵衛 和久藤内 佐々小十郎

茶室 山月庵 

懐石 煮抜き卵に胡瓜、八丁味噌仕立ての汁、沢庵に豆腐、茄子の煮物、梅干、揚げ昆布など

本席

掛物① 三十六歌仙のひとり凡河内躬恒躬(おおしこうちのみつね)

  「春の夜の闇はあやなし梅の花 色こそ見えね香やは隠るる」

  (春の夜の闇は深く梅の花の色も見えないが、香りは隠れようがない、ありかは知られてしまう。)

掛物② 朱熹(しゅき)作

   「夢」

少年老い易く学成り難し

一寸の光陰軽んず可からず

未だ覚めず池塘春草(ちとうしゅんそう)の夢

階前(かいぜん)の梧葉(ごよう)巳(すで)に秋声(しゅうせい)

(若者は年をとりやすく、学問はなかなか成り難い。それゆえ少しの時間でも軽んじてはならない。池の堤の若草の上でまどろんだ春の日の夢が覚めないうちに、庭先の青桐(あおぎり)の葉には秋の声が聞かれる。月日は気づかぬうちに速やかに過ぎ去ってしまうのだという漢詩。)

茶碗 黒天目

花入 青竹

 花 一枝の白梅

菓子 練り菓子

雛の茶事(茶会)

亭主(茶を点てる人) 柏木

客 浮島(女人) 波津(女人) 又兵衛

茶室  山月庵

懐石 土筆(つくし)と麩の味噌汁、蕨と木の芽の碗盛など

本席

掛物 座禅の書『碧巌録(へきがんろく)』の言葉

  「百花春至為誰開(ひゃっかはるいたってたがためにかひらく)」

(冬は枯野原でも、春ともなれば一斉に花を咲かせ、百花繚乱となりますが、花を見るのは、その姿を見るのではなく香のような花の心を見るべきだ。)

花器 竹

 花 侘助(わびすけ)淡紅色の花椿

(侘助は加藤清正が朝鮮から持ち帰った椿で、利休の下僕の侘助が苦心して育てたことから、侘助と呼ばれるようになったと伝えられる) 

山桜の時期の茶事(茶会)

桜が散り始め、山腹にかけては開花時期が遅い山桜が春霞のように連なっている

亭主 承安

客 柏木 千佳(女人)

茶室 丹波屋敷 青山亭(せいざんてい)

本席

掛物 禅宗の偈

京の大徳寺百十一代住職の春屋宗園(しゅんおくそうえん)が作庭で知られる 小堀遠州に与えた偈だといわれる

  「扁舟(とまぶね)雨を聴いて蘆的(ろてき)の間に漂う 天もし吹きはらさばあわせて青山(せいざん)を看るべし」

(小舟が雨の降る中、蘆(よし)や荻(おぎ)の間を漂っている、もし、天が風によって闇を吹き払ってくれたなら、青山がみえるであろうよ)

花器 竹筒

 花 活けてない

夜咄の茶事(茶会)

冬至から立春までの間、夕暮れの時から行われる茶事。

亭主 承安

客 駒井 正之進 土屋 藤尾(女人)

茶室 丹波屋敷 青山亭(せいざんてい)

本席 

掛物 「扁舟(とまぶね)雨を聴いて蘆的(ろてき)の間に漂う 天もし吹きはらさばあわせて青山(せいざん)を看るべし」

山桜の時期の茶会と同じ。

花 白い花がよいとされる

茶碗 赤天目茶碗

 

どの茶会でも掛軸の言葉が、それぞれの茶会の目的や内容を暗示しています。

 

主人公の柏木は、「茶」を通して藤尾の自害に関わると思われる人たちと相対して藤尾の自害の謎に迫っていくのです。

 

掛物(掛軸)はお茶会の中心です!

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印象に残ったシーン: 「山月庵茶会記」

あまり茶道にたしなみのない又兵衛が、茶人として大成したといわれる柏木との会話。

亭主(茶を点てる)は、あまり茶道にたしなみのない又兵衛

客にいるのが茶人として大成したといわれる柏木。

 

又兵衛が茶を点てながら、

「茶とは面白いな」

「言うなれば天地人、すべてがこの茶室にある。茶を点てる者の気概はあたかもこの世を呑み尽くそうというほどのものだ。」

柏木は、

「まるで鯨だな」

又兵衛が、

「そうだ狭い茶室が一杯の茶によって大海原へと変わる。」

 

自分が亭主になって茶室ごと自分の色に染め上げていくような気分なんですね。

すごい感覚!!

私は、まだまだ、お茶を点てる手順やお道具の扱いでいっぱいいっぱいで、相手を思って茶を点てるという基本的な茶の湯の精神にも至っていません。

いつか自分で茶を点てるときに、こんな気分になってみたいものだな~と感じています。

先日食べた「くじらもなか」を菓子に出したらピッタリ!?

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まとめ:「山月庵茶会記」

茶道をたしなむ人には、興味深く楽しく読める本です。

ちょいちょい茶道知識があると面白く感じるシーンもあります。(柏木の掘った落とし穴に又兵衛が落ちたり!!)

 

茶道をまったく知らないと、ちょっとわかりづらい表現などもありますが、藤尾の自害に関する謎を解くという推理小説としては、読みやすくわかりやすい本です。

また、江戸時代の時代小説として読むこともできます。

男の友情物語でもあり、年齢や性別を問わずに誰もが楽しめる小説でした。

山月庵茶会記 (講談社文庫)

山月庵茶会記 (講談社文庫)